競艇・人身事故発生件数の推移、防護具の進化
それでは、1977年(昭和52年)から2019年(令和3年)までに発生した人身事故の件数を見てみましょう。
こちらは全て、治療日数が11日以上の大怪我になります。
また、導入された新しい防護具についても紹介しています。
年代 | 事故発生件数 | 防護具導入 |
---|---|---|
1977年 | 250 | |
1978年 | 200 | |
1979年 | 220 | |
1980年 | 240 | |
1981年 | 170 | |
1982年 | 170 | |
1983年 | 130 | カウリング導入 |
1984年 | 120 | 救命胴衣リニューアル、ヘルメットにアゴガード導入 |
1985年 | 140 | |
1986年 | 130 | |
1987年 | 180 | |
1988年 | 150 | |
1989年 | 140 | |
1990年 | 120 | |
1991年 | 130 | |
1992年 | 130 | ヤマト300型モーター導入 |
1993年 | 160 | |
1994年 | 170 | |
1995年 | 180 | |
1996年 | 200 | |
1997年 | 180 | フルフェイスヘルメット導入 |
1998年 | 180 | 低重心ボート導入 |
1999年 | 130 | |
2000年 | 120 | ソフトバウ導入(99年の沢田菊司さんの死亡事故を受けて) |
2001年 | 140 | |
2002年 | 130 | |
2003年 | 130 | |
2004年 | 120 | キャビテーションブレーキ延長 |
2005年 | 110 | ソフトバウ改良 |
2006年 | 100 | |
2007年 | 130 | |
2008年 | 130 | |
2009年 | 120 | |
2010年 | 120 | |
2011年 | 120 | |
2012年 | 130 | 備え付けプロペラ制度開始 |
2013年 | 130 | |
2014年 | 170 | 出力低減モーター導入 |
2015年 | 180 | ヘルメット改良 |
2016年 | 170 | |
2017年 | 170 | |
2018年 | 190 | |
2019年 | 170 |
- 事故発生件数:公益社団法人日本モーターボート選手会による年度事業報告書等を参考に概算を算出
上記の他に、ヘルメットや救命胴衣は、可動域の向上や軽量化、浮力の向上が頻繁に行われています。
時を経るごとに、さまざまな防護具が導入されていることがわかります。
しかし、事故発生件数の推移を見て見ると、1983年のカウリング導入で事故件数は激減していますが、それ以降は変化が無いようです。
- カウリング:エンジン部を覆うカバー、レーサーを衝撃から守る
では、カウリング以降の防護具には効果がなかったのでしょうか。
もちろん、そんなことありません。
ヘルメットを例に挙げると、昔はフルフェイスではなく、アメフト選手が使用しているような形状でした。
その結果、顔面の切り傷が多発し、特に有名なのはボートレースアンバサダーである植木通彦の大怪我です。
現在のフルフェイスヘルメットでは顔面の切り傷が劇的に減少!
さらに、軽量化にも成功しており、操作性も向上しています。
もう一つの例として、ソフトバウの導入も打撲や骨折を劇的に減少させました。
最近の話題では、大山千広の大怪我が有名です。
後続艇から背中を直撃され、大山選手は約3ヶ月間の入院生活を余儀なくされました。
もし、ソフトバウが導入されていなかった場合、再帰不能な大怪我になっていた可能性があります。
- ソフトバウ:ボートの先端に取り付けている合成ゴム
なぜ人身事故が減らないのか、レーサーに問題あり?
事故防止の取り組みが行われているにも関わらず、事故発生件数が減らない理由は、レーサー側に問題があるようです。
ここでは、事故防止策を2つに分けて、レーサーがどのように対応するかを考えてみましょう。
1つ目は罰則の強化です。
これは、選手のメンタルに影響を与え、無理なレースを減らすことを目的としています。
2つ目は防護具の改良です。
ハード面の強化は事故の減少に寄与しそうですが、なぜ問題が生じるのでしょうか。
それぞれ見ていきましょう。
罰則の強化、選手のメンタルに影響
まずは罰則の強化です
事故点の増加や、ダンプの禁止といった、事故防止を目的とした罰則強化は数年ごとに行われています。
こちらの導入時は一時的に事故が減るのですが、2〜3年後には元の事故率に戻ってしまいます。
その理由ですが、選手たちは変化に順応して際どいレースを行う傾向があるからです。
レーサーは勝負師なので、ギリギリのレースを展開し、罰則を回避して勝利を狙います。
これですと、罰則の強化が事故軽減に繋がりませんね。
例えば、無理ができないような厳しいルールを設ければ、事故率は確実に軽減されます。
その代わり、迫力のあるレースが減るのは明白ですね。
最適なルールの新設には、多くの障壁が存在することも事実です。
防護具の改良、際どいレースが増加
続いて、防護具の改良です
新しい防護具の導入直後は、事故件数は一時的に減少します。
ただし、2~3年もすると、再び事故発生件数が150〜200件の範囲に落ち着きます。
レーサー心理としては、新しい防護具が導入されても、最初は従来通りのレースを続けます。
しかし、しばらくすると選手たちは慣れてきます。
その結果、以前はできなかった攻めのレースを行うようになるのです。
問題点は、先に述べた罰則の強化と同様で「選手が慣れて際どいレースをする」という点が原因のようです。
ボートレースは勝負事なので仕方ないのですが、このままですと事故の減少は一向に望めません。
昨年は、小林晋、中田達也の2人のレーサーが亡くなったこともあり、新たな対策が必要になっています。
例えば、「ペラを剥き出しにせずガード付ける」など、より安全にレースができる工夫が必要です。
今後の競走会の施策には注目が集まります。